2014年に始まった「地方創生」。今では各地でさまざまな地方創生の取り組みがおこなわれています。では、地方創生とは具体的にはどのようなことなのか、ご存知でしょうか?今回は地方創生の具体的な取り組みについて紹介します。「将来地域に関わる仕事がしたい」「地元に戻って働きたい」と考えている方は、ぜひご一読ください。
記事の概要
地方創生とは
まずは、地方創生について知っておくべき4つのポイントを解説します。
- 地方創生とは
- 4つの基本目標と2つの横断的目標
- 第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略
- 第2期施策の施策内容
地方創生とは
「地方創生」とは、2014年の第二次安倍内閣によって始まった、地方活性化の政策です。
現在の日本では、都市部と地方の経済格差が課題となっています。東京などの都市部に若い世代や企業が集中する一方で、地方では人口が減少し、働き手がいないなどの理由で産業が衰退。その結果、地方では活気ある地域社会を維持することが難しくなってきているのです。
みなさんの身近でも、以下のような出来事が起こっていませんか?
- 知り合いが就職で地元を離れ、東京などの都市部に行ってしまった
- 商店街のお店が減り、シャッター街となってしまった
- 地域で若い人を見かけなくなった
このような状況は、日本各地で見られています。人やお金が都市部に流れてしまい、地域社会が活力を失っているのです。
地方創生とは、このようなヒト・モノ・カネが都市部に集中している状況を変え、それぞれの地域社会を活性化し、日本全体が元気になることを目指す政策なのです。
4つの基本目標と2つの横断的目標
政府は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定し、地方創生の基本方針として、以下に示す4つの基本目標と、2つの横断的目標を掲げています。
<基本目標>
- 稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
- 地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
- 結婚・出産・子育ての希望をかなえる
- ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
<横断的目標>
- 多様な人材の活躍を推進する
- 新しい時代の流れを力にする
第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、2015年から2019年が第1期、2020年から2024年が第2期となっています。
第2期では、新型コロナウイルスの流行によってテレワークや地方移住への関心が高まったことから、基本目標と横断的目標に加え、以下の3つの視点にも重点が置かれました。
ヒューマン:テレワークの推進によって、都市部から地方への人の流れを作る
デジタル:デジタル技術を活用して地域の課題解決や魅力アップを目指す
グリーン:再生可能エネルギーなどを活用して地域の活性化や課題解決を目指す
第2期施策の施策内容
現在実施されている第2期では、以下の施策に重点的に取り組んでいます。
施策 | 内容 |
---|---|
地方へのひと・資金の流れを強化する |
|
新しい時代の流れを力にする | SDGsを原動力とした地方創生 |
人材を育て活かす | 地方創生に取り組む人材の育成や活動支援 |
民間と協働する | 地方公共団体に加え、NPOなどの地域づくりを担う組織や企業と連携 |
誰もが活躍できる地域社会をつくる | 女性、高齢者、障害者、外国人など誰もが居場所と役割を持ち、活躍できる地域社会を実現 |
地域経営の視点で取り組む | 地域の経済や社会の全体像を見ながら地域をマネジメントする |
地方創生が必要な理由
なぜ地方創生が必要といわれているのでしょうか?
主な理由として、以下の3つを紹介します。
- 人口減少
- 東京一極集中の進行
- 地域経済の衰退
理由1|人口減少
日本の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少傾向に転じ、2022年9月1日時点では1億2,475万人。このまま減少が続けば、2050年には1億人を下回るといわれています。
さらに、単に人口が減るだけでなく、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の割合が減り、高齢者の割合が増加していくでしょう。
この「少子高齢化社会」の到来によって、以下の4つの問題が発生します。
- 経済規模の縮小、国力の衰退:あらゆる産業で人手不足が顕著になり、市場や事業の規模が縮小し、結果的にGDP(国内総生産)の減少につながる。
- 国際競争力の低下:国内経済の縮小にともなって、世界で戦える経済基盤を作ることが難しくなる。また、海外からの投資も減り、イノベーションも起こりにくくなる。
- 社会保障制度と財政の破綻:高齢者が増え、それを支える現役世代が減少すれば、現行の社会保障制度が成り立たなくなる。
- 地域社会の衰退:人口減少は都市部に比べ地方のほうが顕著なため、このままでは暮らしを維持できなくなる地域社会が多発してしまう。
少子高齢化の流れは都市部よりも地方で顕著に見られ、全国1,718の自治体のうち896が2040年には「消滅可能性都市」に該当するという調査結果があります。「消滅可能性都市」とは、2040年にかけて20〜39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村のことです。新しい世代が育たないため地域社会の維持が困難となり、無居住地化を余儀なくされる可能性が高いといわれています。日本の自治体のうち半数が「消滅可能性都市」に当てはまっており、危機的な状況であるといえます。
出典
・人口推計(令和4年(2022年)4月確定値、令和4年(2022年)9月概算値)
・広域行政・市町村合併(総務省)
・「地域消滅時代」を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について p2、p5(増田加寛也)
理由2|東京一極集中の進行
2022年9月時点で、東京都には日本の総人口の1割にあたる1,400万人が暮らしています。東京のような大都市には人・企業・都市機能が集まっているため、生産性向上やイノベーションが生まれやすいといったメリットがあります。また、教育や所得、生活水準も高く、生活していくうえでも便利です。しかし、「災害リスクが高まる」「地方の活力が失われる」といったデメリットもあります。特に東京と地方の格差はどんどん広がっており、社会・経済の大きなひずみを生み、修復が難しくなりつつあります。
出典:東京都の統計
理由3|地域経済の衰退
若者が地方から都市部に流出することで、地域経済の衰退も深刻化しています。人口減少によって働き手が不足しているだけでなく、地域の経済規模が縮小し、サービスの維持が困難な状況に。それが雇用力低下に直結し、人口流出がさらに大きくなるといった負の連鎖が起きています。
地方創生において農業が抱える課題
地方創生は、農業においても重要な課題です。その理由は、地方から都市部への人口流出によって担い手不足が深刻化し、以下の問題が発生しているからです。
- 農地の維持管理が難しくなる
- 農業の多面的機能が発揮されなくなる
農地の維持管理が難しくなる
地方では、人口流出にともなって農業従事者が減少し、農地の維持管理が難しくなっています。その結果、耕作放棄地が増加し、以下の問題が発生しています。
- 食料自給率の低下
- 雑草や害虫の発生
- 野生動物による作物や人への被害の発生
- ごみの不法投棄
農業には、地域の雇用の受け皿となる「産業」としての役割だけでなく、地域の社会的機能を守る役割があります。担い手が減って耕作放棄地が増えると、安心安全な暮らしが脅かされるリスクがあるのです。
農業の多面的機能が発揮されなくなる
農業の多面的機能とは、農業生産活動によって生ずる、食料供給以外のさまざまな機能のことです。具体的には、以下に代表されるような機能があります。
- 洪水を防ぐ機能
- 土砂崩れを防ぐ機能
- 地下水をつくる機能
- 暑さをやわらげる機能
- 生き物のすみかになる機能
- 文化を伝承する機能
- 農村の景観を保全する機能
- 癒しや安らぎをもたらす機能
これらの機能は経済的価値に換算することが難しく、一度失われると取り戻すことは困難です。また、国土を保全し、安心安全な暮らしを続けるうえで必要不可欠といえます。
しかし、このまま地方の人口流出が続き、農業の担い手が減少すれば、農業の多面的機能も失われてしまうでしょう。そして、災害が頻発したり、きれいな水を利用できなくなったりと、私たちの暮らしに影響が及ぶことが考えられます。また、文化や美しい農村景観が失われ、精神的な豊かさの喪失にもつながるといわれています。
地方創生の主な取り組み
それでは、地方創生の取り組みには何があるのでしょうか?
今回は、具体的な取り組みとして、以下の5つを紹介します。
- 移住定住支援
- 地域おこし協力隊
- サテライトオフィスの開設
- 起業支援
- 特産品開発
移住定住支援
地方から都市部へ行く人がいる一方で、近年は都市部から地方に移り住む人も増えています。そのため多くの地方自治体では、都市部からの移住者を呼び込もうと、移住定住支援に取り組んでいます。具体的な支援としては、引越しや住宅の取得・改修費用などの補助金や、空き家バンク制度など。自治体によっては専門の窓口を設置し、トータル的なサポートができるようにしている地域もあります。
地域おこし協力隊
地域おこし協力隊とは、都市部から人口減少や高齢化などの進行が著しい地域に移住して地域活性化に取り組み、その地域への定住・定着を図る総務省の取り組みです。活動内容や条件、待遇は自治体によってさまざま。活動として多いのは、以下の3つです。
- 地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR
- 農林水産業への従事
- 住民支援などの地域協力活動
これまでに6,000人以上の地域おこし協力隊が生まれており、その多くが任期終了後も活動地域に定住・定着しています。総務省は2026年度までに隊員数を1万人に増やすと公言しているため、地域おこし協力隊は今後もさらに増加し、地方に活気をもたらす存在として期待されています。
サテライトオフィスの開設
サテライトオフィスとは、本社から離れた場所にある小規模なオフィスのことです。支社や支店とは違い、通勤時間の削減や子育てと仕事の両立など、働きやすさを重視して設置されます。
近年では、東京や大阪に本社を置きながら、地方にサテライトオフィスを設置する動きが増加中。総務省も2016年から「ふるさとテレワーク」を実施しており、地方でサテライトオフィスを開設するのに補助金を交付しています。
他にも、サテライトオフィスの開設には、以下のようなメリットもあります。
企業のメリット | 地方のメリット |
---|---|
|
|
地方自治体によっては、サテライトオフィスの誘致に積極的な地域もあります。テレワークの推進もあり、今後はさらなるサテライトオフィスの増加が期待されています。
起業支援
地方で起業したい方への支援も豊富です。国が「地方創生推進交付金」という補助制度を施行しているだけでなく、地方自治体による支援も盛んです。自治体によっては「起業セミナー」なども開催し、地域で新しい産業が興る基盤を整えている地域もあります。
特産品開発
地域産品を使って特産品開発をおこなう取り組みも、地方創生の一環です。魅力的なマーケティングにより特産品が人気になれば、地域の雇用創出や魅力アップにつながります。また、農産品を使っている場合は、地域の農業にも貢献できます。
地方創生を推進するための交付金
現在の日本が抱える課題の解決策として期待される地方創生。政府や行政が力を入れている政策であることから、地方創生には次のような交付金も用意されています。
- 地方創生先行型交付金
- 地方創生加速化交付金
- 地方創生推進交付金
- 地方創生拠点整備交付金
- 地方創生テレワーク交付金
地方創生先行型交付金
地方自治体がおこなう優れた施策を支援する交付金です。具体的には、以下の分野の事業が交付の対象となります。
- 人材育成・移住
- 地域産業
- 農林水産
- 観光
- まちづくり
地方創生加速化交付金
仕事を通して地方への人の流れを作ったり、地域経済を活性化させる施策に対する交付金です。こちらも自治体向けの交付金で、以下のような事業が交付の対象となります。
- しごと創生
- 地方への人の流れづくり
- 働き方改革
- まちづくり
地方創生推進交付金
地方自治体が主体となっておこなう事業を推進するための交付金です。地方再生計画をベースにした、何年かにわたって進めるような新しく先進的な事業の支援を目的としています。以下のような事業が交付の対象です。
- 観光振興
- 商店街の活性化
- 移住定住支援
- 働き方改革
- 起業支援
地方創生拠点整備交付金
施設整備を支援する交付金です。施設の建設ではなく、「施設をどう使うか」という活用方法を重視しているのがポイント。イノベーションの拠点や人々が交流できる施設に対して交付されます。
地方創生テレワーク交付金
地方でのサテライトオフィス開設や、テレワークを活用した移住・滞在の取り組みを支援する交付金です。
新型コロナウイルスが流行してから、「インターネット環境さえあればどこでも仕事ができる」という理由で、地方にも拠点を設ける企業やフリーランスが増えています。この交付金はテレワーク環境の整備によって企業やフリーランスを地方に呼び込み、都市部に人や企業が集中することを解消することを目的としています。
出典:地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設状況調査結果(総務省)
地方創生の事例
地方創生の具体的な事例として、以下の3つの取り組みを紹介します。
- 大分県豊後高田市
- 岡山県美作市
- 株式会社ダンクソフト
事例1|人口の社会増を達成【大分県豊後高田市】
大分県豊後高田市では、2011年から人口増加を目的に、手厚い移住定住支援を開始。空き家バンクや子育て支援の充実、各種助成金の整備など、さまざまな施策を実行しました。その結果、2014年度から8年連続で人口の社会増(転入者が転出者を上回る状況)を達成。また、「田舎暮らしの本(宝島社)」で毎年実施されている「住みたい田舎ベストランキング」では、10年連続でベスト3位内を達成しています。
出典
令和3年 豊後高田市10大ニュース(豊後高田市公式ページ)
【全国初】10年連続ベスト3達成!-宝島社「住みたい田舎」ベストランキング 全部門で第1位-(豊後高田市公式ページ)
事例2|棚田の再生【岡山県美作市】
岡山県美作市の上山地区には、かつて8,300枚の棚田がありました。しかし、少子高齢化の影響で、棚田は徐々に減少。美しい景観はどんどん失われていきました。そこで、かつての美しい棚田を取り戻そうと、地域おこし協力隊をはじめとする移住者と、地元住民が連携した活動を展開。棚田の維持管理だけにとどまらず、特産品開発や企業・団体と連携した先駆的な取り組みを実施しています。また、こうした取り組みに惹かれて移住者も増え、今では集落に暮らす約150人のうち、40人程度が他地域からの移住者です。
出典
上山の棚田(美作市公式ページ)
岡山・美作市上山地区の「棚田の稲株」販売 株主総会も予定(岡山経済新聞)
事例3|サテライトオフィスの設置【株式会社ダンクソフト】
株式会社ダンクソフトは、東京に本社を置くIT企業です。2000年代より育児や介護のために社員の在宅勤務の実施を始めました。2011年の震災以降は、代替地として日本国内外10か所にサテライトオフィスを開設。その結果、以下のような成果が生まれています。
- 地元の優秀な人材の獲得
- 従業員のワークライフバランスの充実
- 地元企業・団体との関係性の構築
株式会社ダンクソフトは、単にサテライトオフィスを開設するだけでなく、地域とのつながりやよい人間関係を構築することを大切にしています。だからこそ人材が集まり、ビジネスが広がっているのでしょう。
出典
地方創生テレワーク(内閣府)
Telework Net(総務省)
まとめ:さまざまな学びを通して地方創生に関わってみよう
最近では、大学や専門学校で地方創生について学ぶことができます。具体的には、経済学や経営学といった座学に加え、地方創生の現場での実習をおこない、地域の課題解決に取り組める人材の育成を目指します。学校によっては滞在型のプログラムを用意しているところもあり、実際にその地域で暮らしながら、現場経験を積むことも可能。将来的に地方創生の現場で働きたいと考えている方は、進路選択の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。
農と食分野(調理技術など)から、地方創生にアプローチしていくひとつの方法として、仙台医健・スポーツ専門学校で学んでみることもおすすめです。