人の一生に関わってくる「目の健康」。
人は自分を取り巻いている世界の情報のおおよそ8割を目から得ていると言われています。
そのため「目が正しく見えること」は、生活水準を大きく左右すると考えられます。
視能訓練士は眼科領域においての専門的な技術者として、乳幼児~高齢者まで幅広い世代に対して目の健康を守るためのサポートを行う仕事です。
本記事ではそんな視能訓練士の業務内容として、主な4つの仕事について詳しくご紹介していきます。
記事の概要
視能矯正
視覚の発達年齢には制限があるため、視能矯正の対象者となるのは視機能が発達している最中の子どもです。
まだ上手く言葉にできない幼い年齢の子どもの場合には視機能検査を実施し、両眼視の正常な機能獲得や弱視・斜視に対する視力向上を目的とした視能訓練を行っていきます。
視能矯正の内容としては、両眼視機能、斜視・弱視の視能訓練、眼位・眼球運動検査などがあります。
両眼視とは?
基本的に人は左右2つの眼を連携させて、広い視野で見たり立体視したりすることができます。
それぞれ左右の眼に映った像が頭の中で融合し、2つがまとまった状態で働くために生じる感覚です。
この「両眼をまとめて使うことで得ることができる感覚」を両眼視と言います。
両眼視は、私たちが「物を快適に見ることができる生活」をおくるために欠かすことができないものでありますが、その必要条件として「物を両眼ではっきりと見ること」「両眼で1つにまとめて物を見ること」という2機能が無くてはなりません。
見る対象物にピントを合わせ、「物を両眼ではっきりと見ること」ができるのは、「調節」の機能が働いているおかげです。
一方、両眼の視線を1つに合わせ、「両眼で1つにまとめて物を見ること」ができるのは「輻輳(ふくそう)」の機能が働いているからなのです。
「調節」「輻輳」の機能は密接関係にあり、両方の機能がきちんと連携して行われている状態が理想なのです。
また人の両眼視や視力そのものは、一般的に9歳前後の時点で成人とほとんど同じ機能が完成されると言われています。
それまでに目の視力に差が生じている場合などは、両眼視の機能が不十分であることもありますが、幼い頃から適切な治療を受けることで正常な両眼視の機能を獲得することができるのです。
しかし、9歳前後を過ぎてしまうとその機能を十分に獲得できる可能性も下がってしまいます。
そのため、できる限り早い段階で視力不良などの問題を発見し、適切な治療を行うということが重要なのです。
視機能検査
人の眼は非常に複雑であるため、各機能が正常であるかどうかをチェックするためのさまざまな検査があります。
視力検査・屈折検査・視野検査・眼圧検査といった多くの検査をはじめ、正しく色を見ることができているか・物を立体的に見ることができているかといった検査など、さまざまな眼科検査・特殊検査が行われます。
医師による診断・治療を行うにあたって必要なデータを提供することで眼科医療をサポートします。
視力検査
一部が欠けている輪・ひらがな・アルファベットといったものを正しく判別して、どれくらい正しく見えているのかを測る検査です。
多くの眼科で行われている検査の種類であり、眼鏡やコンタクトレンズの処方でもこちらの検査が行われることがあります。
屈折検査
視力検査を行う前に、「近視」「遠視」「乱視」のどれに該当するのかを大きく把握するため、目の屈折度数を測っていきます。
目の網膜の手前にきてはじめてピントが合う状態であれば近視、目の網膜の後ろの方でピントが合う状態であれば遠視と診断されます。
視野検査
一点をじっと見つめている状態で、上・下・左・右がどこまで見えているのかを測ります。
目の疾患では視野が欠けてしまったり、狭くなったりしてしまうことも非常に多いため、重要な検査にあたります。
眼圧検査
目に空気を吹きつけて目の硬さを測ります。
緑内障・網膜剥離といった病気の早期発見に役立ちます。
眼底検査
目の内部を観察することができる検査です。
緑内障・高脂血症・高尿酸血症・糖尿病といった疾病・その兆候を見つけることができます。
色覚検査
色を見て正しく認識できているかを検査します。
警察官や自衛官に加え、飛行機・列車・船などの操縦を行う方、信号の正しい識別が必要な方に行われる検査です。
両眼視検査、立体視検査
物体を正しく立体的に見ることができているかを確認します。
視機能が未発達の子どもに実施されるケースが多いです。
眼位検査、眼球運動検査
目が向いている方向・目の動きを確認します。
斜視がある場合には、その「ズレ」がどれくらいのものであるのかを測ります。
健診業務
3歳児健診・就学時健診・定期健診・成人の生活習慣病予防健診といった健診を通じて、視機能検査を実施します。
子どもの場合は視覚の発達を防止する斜視・弱視といったものを、成人の場合は早期に目の疾患を発見して、適切な治療につなげることを目的としています。
ロービジョンケア
目の疾患・目の外傷によって視機能低下となり、日常生活において不自由を感じやすくなった方のために支援を行っていきます。
一人ひとりに視機能検査を実施し、日常生活や学業面・仕事面での影響をカウンセリングして、それぞれに合わせた補助具の選定や、視覚リハビリテーション施設との連携によるアドバイスを行っていきます。
対象者は、乳幼児~高齢者と幅広く対象にしています。
似ている職種との違い
視能訓練士に似ている職種として、「眼科医」と「眼科検査員(OMA)」が挙げられます。
眼科医との業務の違い
視能訓練士の業務と眼科医の業務に違いはあるのでしょうか。
眼科専門である眼科医師は眼科検査全般に加え、目の治療も行うことが可能です。
一方で視能訓練士は眼科医のように、目の診療や治療を行うことはできません。
ただ、視能訓練士は眼科クリニックなどで医師の代理として、目の検査を実施することが認められています。
そのため、眼科医と視能訓練士とでは業務内容の範囲が異なるのです。
つまり、視能訓練士は「医師から目の診療に関する一部分のみ任されている仕事」であると言えます。
さらに同じ視能訓練士の資格を所有している人であっても、クリニックや病院といった勤務先によって視能訓練士が担当する業務内容が異なるものです。
クリニックであれば視力検査をはじめ、眼圧検査や眼底写真撮影など、いろんな検査をまんべんなく担当するということが一般的です。
しかし総合病院・大学病院といった場所では大まかな検査を行うことが中心ではありますが、斜視・弱視の治療サポートを専門的に行うといった業務の細分化が行われているケースが多いです。
眼科検査員(OMA)との業務の違い
視能訓練士と業務の似ている職業として「眼科検査員(OMA)」といった職業があります。
この眼科検査員(OMA)は、日本眼科医会認定の民間資格として知られていますが、現在では廃止され、資格取得ができません。
また、視能訓練士とこちらの眼科検査員(OMA)を比較してみると、視能訓練士は国家資格であるため、一層目に関しての専門性が高いとされる資格であり、担当できる検査の内容も視能訓練士の方が多いと言われています。
またそんな眼科検査員(OMA)に対し、視能訓練士のことは「orthoptist」の単語を略して「ORT」と呼ぶこともあります。
視能訓練士が行っているトレーニング・検査といったものは、元々資格が無くとも行えるものでしたが、近年眼科クリニックの多くは「正しい検査の知識を持った者が行うべきである」という意識が高まっています。
これまでは資格を持っていない助手、もしくは民間資格の眼科検査員(OMA)を持っている人が行っていた眼科クリニックの検査に関して、近年では視能訓練士の設置が義務化されてきているのです。
今後眼科クリニックをはじめ、そのほかの医療機関において視能訓練士の募集のニーズはより増加していくことが考えられています。
すでに「現状、視能訓練士が足りていない」と感じている眼科クリニックも多いことでしょう。
現在、視能訓練士の資格取得を目標として努力している人にとっては、今後就職・転職といったものがしやすい業界だと言えます。
視能訓練士の業務の魅力
視能訓練士の業務の魅力についてご紹介します。
患者さんに寄り添って目の見え方を改善できる
目の患者さんは、目の見え方に自由がきかなくなることに対し、非常に大きな不安を抱えていることがあります。
視能訓練士の仕事というのはそういった患者さん一人ひとりの悩み・問題・不安といったものにきちんと向き合って寄り添い、訓練などを通じて目の見え方を改善するということに貢献できます。
「目の不自由さ」というのは生活水準を低下させる要因の1つとされており、視能訓練士が患者さんに正しい検査・訓練を実施することで、目の見え方を改善できれば患者さんの生活水準を向上することが期待できます。
患者さんの喜びに直接関われる
「目の見え方の不自由さ」というのは生活水準を低下させ、患者さんにとって不幸を感じさせる要因となってしまいます。
視能訓練士の仕事により、患者さんの目の見え方というものが改善されることで、多くの患者さんの不安を解消することができ、喜び・笑顔を生み出すことができるでしょう。
視能訓練士はそういった患者さんとの関わりに直接触れることができるため、そういった患者さんの表情や様子を見て、改めてやりがいを実感することもあるようです。
患者さんとのコミュニケーションを楽しめる
視能訓練士は検査・訓練などを通じ、多くの患者さんと直接関わりを持つことができる仕事だと言われています。
世の中の仕事には人と関わることが少ない仕事もあります。
そういった意味で言うと視能訓練士の仕事というのは、人とのコミュニケーションで成り立つ仕事であるとも言えます。
患者さんの喜び・笑顔に直接関わる仕事でもあり、患者さんに寄り添い、共に悩み・問題を解決していくという関わりの中で仕事を進められるようになります。
最新の眼科医療に触れられる
視能訓練士は、勉強会・院内研修といったものへの参加が必要不可欠です。
その際、最新の眼科医療に触れられる機会も多く、新しい眼科医療の知識・技術を習得できる場面があります。
そこで得た知識・技術は医療現場における患者さんたちに活かすことができるため、勉強を行うほど「患者さんに貢献できる」というやりがいを一層感じさせてくれるでしょう。
「積極的に勉強する・学ぶ」ということは楽なことではありませんが、自身の仕事の結果として患者さんの生活が大きく変わることもあるため、そのやりがいは後々しっかりと感じられます。
おわりに
本記事では視能訓練士の業務内容として、主な4つの仕事について詳しくご紹介しました。
視能訓練士の仕事・業務で得られる「やりがい」はさまざまです。
その中でもとくに、担当している患者さんの視力回復や、子どもの斜視・弱視改善などの効果が見られ始めた際などは、非常に大きなやりがいを感じられます。
また視能訓検査の専門的な知識を持つ者として、眼科医師から頼られるということもやりがいや仕事の励みになるでしょう。