「アグリテック」という言葉を聞いたことはありますか?「あまり馴染みのない言葉だな」と感じた方が多いのではないでしょうか。実は、アグリテックは現代農業で最も注目されている分野の1つです。実際、2019年から2025年にかけて、アグリテックの市場規模は年平均18%を超える高い成長率を誇っています。これから農業に関わる人は、アグリテックに触れる機会も多いでしょう。
今回は今の農業界で最も注目を集めているアグリテックについて、取り組むメリットや事例を紹介します。農業の未来を明るくする話題なので、ぜひ最後まで目を通してください。
記事の概要
アグリテックとは
「アグリテック(AgriTech)」とは、「農業(Agriculture)」と「技術(Technology)」をかけ合わせた造語です。具体的には、ドローンやAIなどのICT技術を活用して、担い手不足や食料自給率の低下などの課題を解決しようとする取り組みです。
また、アグリテックは海外でよく使われる言葉で、日本の「スマート農業」という言葉と同じ意味です。スマート農業(アグリテック)は農林水産省が中心となって活動を展開しており、ここ数年で急速に拡大しています。
アグリテックが注目されている理由
アグリテックが注目されている理由は、現代農業が抱える以下の課題を解決できると期待されているからです。
- 農家の高齢化・減少が進んでいる
- 食料自給率が低下している
- 異常気象によって安定生産が難しくなっている
それぞれについて、詳しく解説します。
農家の高齢化・減少が進んでいる
現在、日本の農家数は年々減少しています。以下の表は、2015年度から2021年度の7年間の基幹的農業従事者数の推移を示したものです。
2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | |
基幹的農業従事者数(万人) | 175.7 | 158.6 | 150.7 | 145.1 | 140.4 | 136.3 | 130.2 |
うち65歳以上(万人) | 114.0 | 103.1 | 100.1 | 98.7 | 97.9 | 94.9 | 90.5 |
65歳以上の割合(%) | 64.9 | 65.0 | 66.4 | 68.0 | 69.7 | 69.6 | 69.5 |
平均年齢(歳) | 67.1 | 66.8 | 66.6 | 66.6 | 66.8 | 67.8 | 67.9 |
※基幹的農業従事者:普段から仕事として自営農業に従事している人のこと
※出典:農業労働力に関する統計(農林水産省)
2015年度には約176万人いた基幹的農業従事者は2021年度には約130万人と、たった7年間で3/4まで減少しています。また、平均年齢は一旦減少したものの再び増加し、2021年度には67.9歳となっています。基幹的農業従事者数に占める65歳以上の割合も増加。農家は全体的に高齢化が進んでおり、なおかつ担い手不足が進行しているといえるでしょう。
さらに、離農者が多いことも、農家の高齢化・減少を助長しています。農林水産省によると新規就農者の3割は、生活が安定しないことなどを理由に、5年以内に離農しています。
以上のような課題を乗り越えるためにも、アグリテックを活用して、作業の効率化や技術継承の簡素化を行なうことが重要とされています。
※出典:担い手の動向(農林水産省)
食料自給率が低下している
日本は先進国の中でも食料自給率が低いことで有名です。カロリーベースの食料自給率は、1965年は73%でしたが、2021年には約半分の38%まで減少。つまり、6割以上の食料を海外からの輸入に頼っているのが現状です。2022年現在は世界的な異常気象や食料需要の増加に伴い、食料価格が高騰しています。将来にわたって日本に安定的に食料が入ってくるのか、怪しい状況が続いています。
そのため、日本政府は2030年までに食料自給率を45%まで上昇させるという目標を立てています。しかし、農業従事者が減少する中で、食料自給率を引き上げるのは至難の業です。そこで活躍を期待されているのがアグリテックです。データを活用した効率的な栽培、ドローンやロボットを使った作業の省力化などが進めば、限られた労働力でも、食料自給率を引き上げられると期待されています。
出典:日本の食料自給率(農林水産省)
異常気象によって安定生産が難しくなっている
昨今、地球温暖化による世界規模での異常気象が問題となっています。毎年のように「干ばつや大雨によって農作物が被害を受けた」というニュースを目にしますよね。日本も例外ではなく、台風や大雨などによって農作物が毎年被害を受けています。このような状況下で安定生産を実現するには、アグリテックが重要とされています。例えば、植物工場を造って、農作物にとって最適な室内環境を生み出すことは、効果的な取り組みの1つといわれています。
アグリテックに取り組むメリット
現代農業が抱える課題を解決できると期待されているアグリテック。
具体的には、以下のメリットがあるといわれています。
- 技術やノウハウを継承しやすくなる
- 生産効率が上がり、人手不足に対応できる
- 働きやすい環境が整備される
- 土地が限られている都市でも農業生産が可能になる
それぞれについて、詳しく解説します。
技術やノウハウを継承しやすくなる
これまでの農業では、栽培技術や経営に関するノウハウは雇用者と非雇用者、または地域のコミュニティ内といった小さな範囲でしか共有されていませんでした。近年では農業人口の減少に伴って、地域で蓄積されてきた技術やノウハウが消失していることが問題視されています。また、長年培った勘に頼る部分もあり、新規就農者が技術やノウハウを習得しにくいことも課題でした。
しかし、アグリテックを活用すれば、農業経験が浅くても熟練農家の技術やノウハウのデータ化も実現可能です。例えば、現在では気象条件を入力するだけで、最適な潅水のタイミングが分かる機器が開発されています。今までは長年の経験や勘に頼っていましたが、データを用いることで経験の浅い農家でも適切な作業ができるようになっているのです。このように、たくさんのデータが蓄積・整理され、誰もが利用できるようになれば、新規就農者への技術やノウハウの継承が容易になります。目に見える数値やデータ、作物の生育状況の画像などを用いて、客観的な判断が可能になるからです。その結果、新規就農者が定着しやすくなり、離農者を減少させられると期待されています。
生産効率が上がり、人手不足に対応できる
アグリテックが普及すると、これまで人の手で行っていた作業をロボットやドローン、AIに任せることができます。収穫を例に考えてみましょう。広大な農地に実った農作物を人の手だけで収穫するのは大変です。しかし、収穫ロボットに任せることで、人の労働時間が削減されます。このように、アグリテックを活用することで生産効率が向上し、人手不足に対応できるといわれています。
働きやすい環境が整備される
アグリテックによって、農業分野でも働き方改革が進みます。これまでの農業は「重労働」「長時間労働」「休みがない」といったイメージがありました。しかし、データやロボットなどの先進技術を活用することで業務の効率化が図られ、働きやすい環境が整備されると期待されてます。
土地が限られている都市でも農業生産が可能になる
アグリテックを活用すれば、土地が限られている都市でも農業が可能になります。例えば、環境制御装置によって室内を作物の生育に最適な環境にすれば、使用されなくなった倉庫やビルでの栽培ができるようになります。また、最近では「アクアポニックス」といって、野菜と魚を同時に育てる技術も開発されています。
都市型農業は消費地が近く、輸送コストを削減できる点が魅力です。都市型農業は農地の確保が難しいとされてきましたが、アグリテックを活用することで、そのような課題も克服できつつあります。
アグリテックの具体例
これまでアグリテックについて紹介してきましたが、具体的にはどのような技術が使われているのでしょうか?
アグリテックで代表的なものは以下の3つです。
- ドローン
- IoT・AI
- ロボット
ドローン
アグリテックを代表する事例がドローンです。ドローンは、主に以下の用途で使われます。
- 農薬散布
- 肥料散布
- 種まき
- 受粉
- 獣害対策
また、カメラやセンサーを搭載し、農作物の生育状況を把握することにも使われています。例えば、ドローンで撮影した画像から、生育の悪い場所を把握し、ピンポイントで追肥。収量を確保すると同時に、肥料のコストを抑えることが可能になります。
loT・AI
IoTとは、さまざまなものがインターネットを通じサーバーやクラウドシステムに接続され、相互に情報交換できる仕組みです。農業分野でもIoTが普及しつつあります。例えば、以下の農業IoTがあります。
- 走行時に土壌の状態を分析できるトラクター
- 収穫時に食味や収量が分かるコンバイン
- ハウス内の気温や湿度などを10分間隔で計測し、データを蓄積できるネットワーク機器
さらに、IoT機器やドローンで集めたデータをAIで分析することで、病虫害の発生予測や収穫期の予測を立てることもできます。
ロボット
収穫や除草など、人の手で行われてきた作業をロボットで補う取り組みも進んでいます。ロボットに作業を任せることで効率が上がり、少ない人数でも大規模経営が可能になります。ロボットに任せられる代表的な農作業は以下の通りです。
- 収穫
- 除草
- 耕耘
- 農薬散布
また、高所での収穫作業や暑熱環境下での作業といった危険な作業をロボットに任せることで、人に被害が及ぶことも防げます。
アグリテックの事例
最後に、アグリテックの事例として、以下の3つを紹介します。
- AI潅水施肥ロボット「ZeRo.agri(ゼロアグリ)」
- スマホを使った潅水制御システム「SenSprout(センスプラウト)」
- レタス収穫ロボット「Vegebot(ベジボット)」
AI潅水施肥ロボット「ZeRo.agri(ゼロアグリ)」
ZeRo.agri(ゼロアグリ)は、AIを用いて農作物の栄養バランスをコントロールする機器です。日射量や土壌水分量から、最適な肥料と水を農作物に共有できるのが特長。農家の勘に頼っていた部分をAIが担うことで、経験の浅い農家でも高品質な農作物を生産できるようになりました。また、必要最小限の肥料と水で農作物を育てられるので、経営の効率化も実現しています。
スマホを使った潅水制御システム「SenSprout(センスプラウト)」
SenSprout(センスプラウト)は、スマートフォンを使って離れた場所からでも潅水(水やり)ができる潅水制御システムです。潅水の予約はもちろん、センサーを使って土壌水分量を把握することも可能。さらに複数人で管理できるため、「潅水忘れ」をメンバー全員で防ぐことができます。作業の効率化だけでなく、扱いやすさも考慮して設計されている点が特長です。
レタス収穫ロボット「Vegebot(ベジボット)」
Vegebot(ベジボット)は、イギリスで開発されたレタスの収穫ロボットです。内蔵カメラでレタスを検知し、色合いから収穫すべきかどうかを判断します。そして収穫となれば、傷を付けないようにレタスを切り取り、所定の位置に移動させます。レタスは収穫のタイミングが難しい農作物ですが、Vegebotは独自に開発されたシステムによって、最適なタイミングでの収穫を可能にしています。作業の効率化だけでなく、最適なタイミングでの出荷が可能となるため、収益増加も期待されています。
アグリテックを学ぶなら「仙台医健・スポーツ専門学校」へ
アグリテックを活用することで、担い手不足や食料自給率の低下など、現代農業が抱える課題を乗り越えることが期待されています。アグリテックの取り組みはどんどん普及しているため、これから農業に関わる人は、必ずアグリテックに触れるといってもいいでしょう。
仙台医健・スポーツ専門学校では、アグリテックについて学べる「農業テクノロジー科 スマート農業&企画マネジメント専攻」を設置しています。生産現場での実習に加え、IT・テクノロジー演習に取り組むことで、アグリテックについて理解を深めることができます。さらに、生産・加工・販売について学べる調理実習、健康・栄養講義も実施。農業だけでなく、食全体について学べる点も特長です。可能性に満ちたアグリテックを活用して革新的な農業経営がしたい方、アグリテックによって食の未来を創造したい方は、ぜひ本校のオープンキャンパスにご参加ください。また、オンラインでの学校見学や、LINEを使った個別相談も実施しています。お気軽にお問い合わせください。