食分野

6次産業化とは?農と食が連携した取り組みを徹底解説

「6次産業」という言葉を聞いたことはありますか?聞き覚えがないという方でも、農家レストランに行ったことがある方や、センスよくパッケージされた地域の特産品を見たことがあるという方は多いのではないでしょうか。実は、これらは6次産業化の取り組みの一環です。ここ十数年で、農業の6次産業化の動きは全国各地で展開されています。これから農業や食に関わる人の中には、6次産業に携わる人も多いでしょう。

そこで今回は、農業の可能性を広げる6次産業について解説します。具体的には、6次産業の事例やメリット、サポート体制などをご紹介します。農業に興味がある人はもちろん、食に関心がある人も楽しめる内容なので、ぜひご一読ください。

6次産業化とは


6次産業化とは、1次産業である農林水産業の事業者が、自身の生産物を加工・商品化し(2次産業)、販売や流通(3次産業)まで手掛けることです。生産物の価値を高めて、農林漁業者の所得の向上を目指します。

6次産業の「6」は、「1次産業×2次産業×3次産業」の掛け算が由来になっています。1992年に東京大学名誉教授の今村奈良臣氏によって名付けられ、日本の農業を明るくするための重要な取り組みとして、日本政府が中心となって推進されてきました。2011年には、地域資源を活用した農林漁業者による新事業の創出や、農林水産物の利用促進を目的に「六次産業化・地産地消法(通称:六次産業化法)」が施行されました。また、6次産業に取り組もうとする事業者向けの支援策も整備されています。

6次産業の具体例


6次産業の代表的なものとして、以下の3つの取り組みがあります。

  • 農家レストラン
  • 農家民宿
  • 加工品販売

農家レストラン

農家レストランは、農家が生産した農産物を加工・調理して提供する飲食店です。収穫したばかりの新鮮な農産物を味わえるのが利用者に喜ばれるポイント。中には収穫体験や、直売所のように農産物の販売も併せて行うなど、さまざまな事業を行っているところもあります。また、ランチタイムにレストラン営業、ティータイムから夕方まではカフェ営業といったように、時間によってメニューを変えている農家もあります。

農家民宿

農家民宿とは、農家の暮らしが体験できる宿泊施設です。一般的なホテルや旅館と異なり、農業体験や、そこで収穫された農産物を使った料理を楽しめます。これらは農山村にあることが多く、のどかな風景に癒されたり、地域の人々との交流ができることもあります。なお、「農家民泊」と「農家民宿」はよく似た言葉ですが、内容は異なります。農家民宿が営利を目的としているのに対して、農家民泊は非営利。そのため宿泊料を受け取ることはできませんが、各地域の自治体の決まりにより体験料として料金を得ることができる場合もあります。

加工品販売

加工品販売とは、農家が生産した農産物を自ら加工し、直売所などの店舗やインターネットなどで販売することです。商品開発からパッケージ、販路開拓までのすべてを農家が行います。労力は必要になりますが、農業に対する想いや商品の魅力を消費者に直接伝えられる点がポイントです。近年ではブランドや品質を前面に押し出した加工品や、地域活性化を目的に開発された加工品、規格外品の有効利用を目的とした加工品など、さまざまな農産物が魅力的な加工品として販売されています。道の駅などの直売所に訪れると、その多彩さを見ることができますよ。

6次産業のメリット


6次産業には、以下の5つのメリットがあります。

  • 所得の向上
  • 雇用の創出
  • 経営基盤の確立
  • 農業生産の拡大
  • 地域経済の活性化

それぞれについて、詳しく解説します。

所得の向上

1つ目のメリットは、所得の向上を期待できることです。6次産業では、卸売などの流通を介さず自分で直接販売するため、中間マージンを削減できます。また、販売価格を自分で決めることができる点も特長。市場価格に左右されにくくなるため、安定した収入につながります。

実際に、2011年に日本政策金融公庫が6次産業化に取り組んでいる法人を対象に行ったアンケートでは、74.5%が6次産業化に取り組んだメリットとして「所得の向上」を挙げていました。このように、6次産業化で価格設定の主導権を握ることで、所得の向上が期待できるのです。

出典:6次産業化に関するアンケート調査結果(日本政策金融公庫)

雇用の創出

2つ目のメリットは、新たな雇用を生み出せることです。これは、業務拡大によって雇用が増えるだけではありません。農業生産は、農繁期は多くの人出が必要ですが、農閑期は作業が少ないため、人手を必要としません。そのため、農業生産しか行なっていない経営では、年間を通して安定した雇用を維持できない点が課題でした。しかし、6次産業化では、農閑期でも加工などの業務があるため、安定した雇用の創出が可能です。

経営基盤の確立

安定した雇用を確保できるようになると、今度は経営基盤の強化が進みます。経営基盤とは、休日の適正取得や社会保険の整備など、社員が働きやすい環境を整えることです。また、教育体制や組織体系の整備なども含まれます。1人1人が「働きやすい」と思える職場環境を整備することで、さらなる所得向上につながることが期待されます。

農業生産の拡大

6次産業が軌道に乗ってくると、農業生産の拡大につながります。農産物を小売店や飲食店に販売する場合、販売できる量は需要に大きく左右されます。たくさん収穫できたのに需要が少なければ、引き取ってもらえないこともあります。しかし自分で販売する6次産業であれば、需要に合わせて供給量を調整することが可能。加工品販売やレストラン経営が上手くいっていると、それに伴って農業生産を拡大することができるのです。

地域経済の活性化

5つ目のメリットは、地域経済の活性化につながることです。6次産業では雇用の創出、農産物や加工品のブランド化、集客力の向上によって、地域経済を活性化させる効果が期待できます。また、農業生産の拡大によって、地域の農地保全にも貢献します。さらに、その地域の伝統や食文化を取り入れることで、地域文化の保全も可能です。

地域住民の雇用が増えるだけでなく、地域の魅力に引き寄せられて、多くの人が集まるようになる。6次産業が軌道に乗れば、このような好循環へとつながる可能性がぐっと高まります。

6次産業の課題


6次産業には、以下のようなデメリットもあります。

  • 高額な初期投資が必要
  • 衛生管理・マーケティングなどの専門知識が必要

それぞれについて、詳しく解説します。

高額な初期投資が必要

6次産業を始めるには、高額な初期投資が必要です。例えば、「6次産業の具体例」で挙げた3つの取り組みを始める場合、以下のような初期投資が必要です。

  • 農家レストラン:店舗設計、物品購入、調理設備、メニュー開発 など
  • 農家民宿:物件の購入、リフォーム、家具や寝具などの購入 など
  • 加工品販売:パッケージデザイン、加工設備、衛生管理、マーケティング など

また、しっかり投資ができたとしても、黒字化するまでには時間がかかります。日本政策金融公庫のアンケート調査の報告書では、6次産業を始めてから黒字化まで、平均で4.1年かかったという結果が出ています。そのため、6次産業を始める場合、収益化できるまで事業を支える資金や、別の収入源が必要となります。

出典:6次産業化に関するアンケート調査結果(日本政策金融公庫)

衛生管理・マーケティングなどの専門知識が必要

6次産業では、農業生産以外の専門的な知識が必要です。例えば、加工品を作る場合は、徹底した衛生管理が求められます。もし食品事故を起こしてしまうと、信頼を失って事業を続けられなくなってしまいます。また、作ったものを消費者に購入してもらうためにも、マーケティングなどの専門知識が必要です。他にも、最近ではSNS運用や動画による発信など、情報発信に関するスキルも求められています。いくら良い加工品やサービスを提供できても、売り方を知らなければ、せっかくの投資を活かしきることができないでしょう。

6次産業化へのサポート


魅力の多い6次産業ですが、経営的に軌道に乗せるのは簡単ではありません。「事業プランの立て方が分からない」「専門知識はどうやったら身につくのか」など、不安を抱える事業者も多くいます。そんな不安を解消するために、以下のようなサポートが用意されています。

  • 6次産業化サポートセンター
  • 6次産業化プランナー
  • 国や自治体の補助金

それぞれについて、詳しく解説します。

6次産業化サポートセンター

6次産業化サポートセンターとは、6次産業について相談できる窓口です。全国の自治体に設置されており、事業計画の作成や商品開発、マーケティングなど、幅広い相談が可能です。また、支援対象と認定された経営体に6次産業化プランナーを派遣し、経営改善に向けたアドバイスをすることも行っています。また、6次産業をテーマとした研修会も実施しています。

6次産業化プランナー

6次産業化プランナーとは、6次産業に関する専門家です。各都道府県の6次産業化サポートセンターに支援対象と認定してもらうことで、アドバイスを受けることができるようになります。

国や自治体の支援

国や自治体では、6次産業化をサポートする支援を用意しています。ただし、無条件で支援を受けられるわけではなく、支援制度ごとにさまざまな条件があります。例えば、農林水産省の支援を受ける場合、「総合化事業計画」を提出して、認定される必要があります。認定されると、以下のサポートを受けることができます。

  • 6次産業化プランナーによる無料アドバイス
  • 施設整備に対する補助
  • 農林漁業成長産業化支援機構による出資

ただし、1人で総合化事業計画を立てることは非常に難しいのが現状です。そのため、まずは6次産業化サポートセンターを活用するのがおすすめです。

6次産業の事例


最後に、6次産業の事例として、以下の5つを紹介します。

  • 株式会社フォレストファーム(加工品販売)
  • 株式会社永光農園(農園カフェ・加工品販売)
  • 有限会社アグリードなるせ(加工品販売)
  • 農業生産法人(有)伊豆沼農産(加工品販売・レストラン経営)
  • 一般社団法人みのり(加工品販売)

事例①株式会社フォレストファーム(加工品販売)

株式会社フォレストファームは、にんじんの生産と、加工品の販売を行っている農業法人です。規格外のにんじんを加工品として販売することで、食品ロスの削減を目指しています。にんじんドレッシングやにんじんジュース、にんじんミートソースといった加工品を販売しています。

事例②株式会社永光農園(農園カフェ・加工品販売)

株式会社永光農園は、卵の生産と、卵を使ったスイーツを提供している北海道の企業です。たまごソフトやパンケーキを販売している店内にはカフェも併設されており、スイーツやドリンクも楽しめます。また、北海道各地のショッピングモールなどへの出張出店や、オンラインショップでの販売にも取り組んでいます。

事例③有限会社アグリードなるせ(加工品販売)

有限会社アグリードなるせは、宮城県東松島市で、米や麦の生産・加工に取り組んでいる企業です。100haを超える経営面積を誇り、バウムクーヘンをはじめとする多くの加工品を販売しています。また、地域の企業と連携して、それぞれの強みを活かした商品開発に取り組んでいることも特長。大都市圏での販売を実現するとともに、2017年のJR東日本「のもの」アワードにて、大賞を受賞しました。6次産業化を通して、地域経済の活性化や風土の保全に大きく貢献しています。

事例④農業生産法人(有)伊豆沼農産(加工品販売・レストラン経営)

農業生産法人(有)伊豆沼農産は、宮城県登米市で多角的な農業経営に取り組んでいる企業です。指定農場で生産した豚肉をハムやソーセージなどの加工品として販売しているだけでなく、自社で経営している直売所・レストランでも提供。また、自社で生産した米やブルーベリーの直売も行っています。他にも、企業向けの体験プログラムの提供にも取り組んでいます。このような活動が評価され、2021年には農林水産省が実施する地産地消等優良活動表彰の食品作業部門において、農林水産大臣賞を受賞しています。

事例⑤一般社団法人みのり(加工品販売)

一般社団法人みのりは、宮城県仙台市で食品加工やレストラン経営に取り組んでいる企業です。6次産業化に取り組んでいるのは加工部門である「みのりFactory」。自社で農業生産を行っているわけではありませんが、地元農家と一緒になって加工品の企画・販売に取り組んでいるのが特長。また、テストキッチンを備えており、商品づくりの試作などに活用できる点も魅力です。1つの組織内で6次産業化に取り組んでいるのではなく、地域ぐるみで6次産業化に取り組んでいる事例です。

6次産業について学ぶなら、仙台医健・スポーツ専門学校の「農食&健康美専攻」へ


今回は、生産・加工・販売を一括して行う「6次産業」について解説しました。農業の求人では農業生産のみを行っている事業者の求人が多くありますが、最近では6次産業に取り組む事業者の求人も多くなっています。6次産業に取り組む事業者は、事業拡大のために新しいアイデアを求めています。そのため、「新しいことにチャレンジしたい」という方におすすめです。就職活動に取り組む際は、6次産業に取り組んでいるかを1つの判断基準にすると良いでしょう。

なお、仙台医健・スポーツ専門学校では、6次産業について学べる「農業テクノロジー科 農食&健康美専攻」を設置しています。農業実習・調理実習・メニュー開発など、6次産業に必要な技術をまとめて学べるのが特長。また、商品開発や流通、マーケティングなど、6次産業に必要な知識も習得することができます。農と食の魅力を多くの人に届けたい方は、ぜひご検討ください。詳しい内容は、本校のオープンキャンパスやオンラインでの学校見学、LINEによる個別相談などで知ることができます。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

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