観ている人々を熱狂させ、結びつける力を持っているのがスポーツです。
「スポーツビジネス」とはどのようなものを意味するのでしょうか?
本記事ではスポーツビジネスとはどのような仕事があるのか、スポーツ産業の特徴についてご紹介していきます。
記事の概要
スポーツビジネスとは
スポーツビジネスという単語だけに注目すると、スポーツシューズ・スポーツウェア・ラケット・ボールといったスポーツ用品の販売を思い浮かべる方が多いかと思います。
確かにこのようなスポーツ用品の販売に関しては、スポーツビジネスのひとつであると言えます。
しかしスポーツビジネスには、このようなスポーツ用品の販売以外にも、スポーツジム・テニスコート・スタジアム・ゴルフ場などのスポーツを行う場所を提供することや、広告・放映権・スポーツ誌発行に関するプロスポーツの関連産業といったものも含まれています。
スポーツビジネスに関わる仕事
スポーツビジネスに関わる仕事をご紹介します
スポーツ用品の企画・開発
スポーツ用品の企画・開発を行いたいという方は、スポーツ用品メーカーへの就職が選択肢のひとつであるとされています。
スポーツ研究により商品を企画し、開発・製造を進めていきます。
プロトップアスリートから一般ユーザーにわたるまで、それぞれに向けた商品に携われる仕事であり、新しい商品を作り出すデザイン力がある方や企画したものを実現させることができるという方にもおすすめの仕事です。
スポーツイベントの企画・運営
スポーツイベントの目的である「新規会員を増やす」「組織全体の一体感を高める」「健康増進をはかる」といったさまざまなものがあり、その目的に合ったイベントを企画することが重要であると言えます。
また「企画をしたイベントの参加者を増やすためにどうするか」「イベント参加者の満足度をあげるためにはどうするか」なども考える必要があります。
スポーツチームの運営
スポーツチームの運営では、チケット販売・スタジアム運営といったさまざまな仕事があり、多くのスキルが必要となってきます。
また、こういったスポーツチームを運営するためには、広い視野・マネジメント能力といったものが求められます。
スポーツビジネスの市場規模
2020年にスポーツ庁が発表した資料では、2017年の日本のスポーツGDPは8.4兆円とされており、これはGDP全体の1.55%にあたるとされています。
金額としては小さくはありませんがGDP比較で見ると、欧州先進国よりも低い位置にあるので、まだ発展段階であると言えます。
スポーツビジネスの収益構造は?
スポーツビジネスの収益構造のデータとして、2017年度の東北楽天ゴールデンイーグルスの数字を確認しましょう。
- チケットの収入 → 34%
- スポンサーの収入 → 27%
- グッズ販売の収入 → 12%
- 放映権の収入 → 11%
- その他の収入 → 16%
このような内訳になっています。
一方でMLB球団の収入の内訳を確認してみましょう。
- チケットの収入 → 30%
- スポンサーの収入 → 11%
- 放映権の収入 → 50%
- 飲食/グッズなどの収入 → 9%
楽天イーグルスとの大きな違いは、「放映権の収入」の占める割合だと言えます。
地上波テレビを「無料」で観ることができるかどうかというポイントが影響しています。
スポーツ産業の構造について
このような収益構造から分かるように、スポーツビジネスは試合日のスタジアムへの集客が行われてこそ、グッズ販売・スポンサーシップといったものに派生していきます。
そのため、新型コロナウイルスの影響を受けてスタジアムへの集客が厳しくなったことが大きな打撃となっているケースも多いのです。
それにより試合日に関係せず、新しい収益源としてのスポーツベッティングやファンからのダイレクト課金といったものなど、スポーツビジネス界にも変化が求められてきました。
スタジアムに足を運ぶことが難しくなってしまったファンに向けて、SNSを使って練習風景の様子や試合の裏側をコンテンツとして随時発信していくなど、ファンとのつながりを強めていく動きも目立ちます。
スポーツビジネスの今後の課題
スポーツビジネスの今後の課題について見ていきましょう。
IT技術活用
AIやIoT機器をめぐっての技術は日々発展を遂げており、スポーツの体験価値をより向上させていく可能性も広くなってきています。
例としては、「自由視点映像」といった視聴者が映像視点を切り替えることができるものや、ARの技術を活かした情報の表示といったものは、放送のエンタメ性を高めることにおいて非常に有効な手段であると言えます。
このような方法を中継として応用していき、伝える・見せるに一層磨きをかけていくことも求められるでしょう。
また、技術発展の恩恵を受けることができるのは、観る側だけではありません。
プロアスリート・一般競技者たちもまた自身の技術向上やチーム戦略を練るにあたって、モーションセンサー・データ解析システムなどの技術が役に立つことでしょう。
このような価値を実現するためにはスポーツ産業とIT産業が綿密な連携を行い、そのようなニーズに応えていくということが必要だと言えます。
アマチュアスポーツにおける収益モデル構築
アマチュアスポーツへのビジネス手法導入が課題として掲げられています。
日本において甲子園・箱根駅伝といった人気のアマチュアスポーツは多いですが、「大会運営においての収益」は重要視されていないため、ビジネスモデルが確立されているのは言えません。
アメリカ合衆国では全米大学体育協会(NCAA)が多種多様な大学スポーツ大会の運営を主導しており、放映権に関する管理も行っています。
この放映権による収入は日本円にすると年間1,000億円にのぼっており、そのほかイベントなどを通じて得たすべて収益の中から、年間3,000億円以上を学生の奨学金にあてていると言われています。
つまりNCAAはアマチュアスポーツならではの「地域密着型の収益モデル」を構築し、そこから得た収益を「スポーツ人材の育成・発掘」にあてて循環させるという構造ができています。
国内のスポーツ庁においてもこういったNCAAをモデルにした体制構築を目標としており、2019年に日本版NCAAとも呼ばれている、大学スポーツの統括団体「UNIVAS」設立支援を行い、基盤づくりに力を注いでいます。
スポーツ経営人材を定着させる
2016年の「スポーツ人材プラットフォーム協議会」においては、日本のスポーツ産業全体に通じることとして、「経営人材不足」の課題が指摘されました。
収益モデルが構築されていないマイナースポーツに関しては、マーケティング・興行・ガバナンスといった総合的な観点からチームを運営してくれる人材が必須なのです。
これまでは、その競技における実績者がチームの上層分に選任されるケースが多くありました。
ただスポーツ庁の調査によると、チームの経営トップ層に求められている教養・技術は一般の経営者と大きく変わるものではなく、MBAなどの経営知識定着が必要であるとされています。
現在では適任の人材であれば、その競技の外部からであっても柔軟に対応して経営人材を呼び込むことができるように、スポーツ経営人材とチームとのマッチングの土台を展開している状況なのです。
スポーツビジネス関連のイベント
スポーツビジネス関連のイベントにはどのようなものがあるのでしょうか?
企業・チームをつなぐ「スポーツビジネス産業展」
例年東京ビッグサイトで開催されている「スポーツビジネス産業展」は、スポーツ専門展示会である「Japan Sports Week」においての中心的なイベントだとされています。
企業がプロのスポーツチームの担当者に自社製品や自社サービスを紹介して、実際に商談にもつなげる場でもあります。
出店の内容もさまざまですが、スポーツビジネス産業展でメインとなっているのがファン獲得・収益の向上を目的としているデジタルマーケティング関連のサービスです。
そのほか「Japan Sports Week」においてはトレーニングに活用可能な先進技術を取り扱う展示会や大会誘致を希望している自治体による展示会などの催しが開催されており、企業・チームを多角的に結びつける試みなのです。
未来のスポーツの発展をつなぐ「スポーツビジネスジャパン」
チーム・企業のBtoB商談会を開催したり、デジタルマーケティングなど今後のスポーツビジネスの課題に関するセミナーを開催したりして、スポーツビジネスの発展を目指すのが「スポーツビジネスジャパン」です。
商談会で取り扱う消費・サービスは幅広く、スタジアムなどの建築・設計などのインフラ分野から、スポーツ施設の設備機器・データ解析・認証システムなどのICT機器などといったスポーツ産業に関してのさまざまな分野が対象です。
スポーツビジネスモデルの変遷
スポーツビジネスモデルの変遷について、1.0~3.0に分けてご紹介します。
スポーツビジネス1.0
当初のスポーツビジネスモデルとしては、1984年の「ロス五輪」において確立されたビジネスモデルの中でもやはりメディアとしての側面が中心となっていました。
メディアを通じて試合中継のコンテンツをたくさんの人に観戦してもらうことによって、ファンを増やして広告価値を大きくするということに焦点が当てられていたのです。
日本では巨人戦の中継がほぼ毎日地上波で放映されていたのですが、これはメディアを通じた放映権の利益に依存していたということが表されています。
スポーツビジネス2.0
インターネット技術の進展によってテレビ離れが進んでいたこの頃、従来のメディア中心のビジネスでは難しくなっていました。
そこでテレビの放映権に依存するのではなく、自身のチームのスタジアムを満員にし、その地元を中心とするコアなファンを増やし、収益を得るというモデル転換が行われるようになりました。
これが球場と球団の一体型経営が増加している背景にもなっており、球団が球場・スタジアムの事業権を「指定管理者制度」の形で握っており、収益拡大を図っているのです。
またその牽引役として位置付けられているのがスポーツ施設を核としており、公共機能・商業施設を併設している多機能複合型施設「スマート・ベニュー」なのです。
スポーツビジネス3.0
スタジアムを起点としたスポーツビジネスが伸びてきているのですが、その一方でスタジアムの「箱」には当然の如く、キャパシティの上限というものがあります。
実際に近年ではプロ野球に関しての人気は伸びているものの、さらなる観客動員数の伸びに関しては見込みづらいというのが実情です。
そこで注目されているのが、スポーツを活用する視点です。
明確なモデルがあるわけではありませんが、ほかの産業との連携を通じて新しい価値を創造していく取り組みです。
スポーツを媒介させ、社会課題解決・企業の価値を再考していく流れが期待されています。
おわりに
本記事ではスポーツビジネスとはどのような仕事があるのか、スポーツ産業の特徴についてご紹介しました。
これまでのスポーツビジネスと言えば、「スタジアム収益」や「放映権」といったものが中心に行われてきましたが、技術の発展にともなって今後はいろいろな形での価値提供が行われていくことが考えられるでしょう。