理学療法士を目指す方であれば「ADL」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか?
本記事では理学療法士が深く関与するADLという言葉の意味と、ADLの項目や評価方法・訓練内容などを紹介していきます。
記事の概要
ADL(日常生活動作)とは
ADLは、「Activity of Daily Living」の略語です。Aは「アクティビティー(動作)」、DLは「デイリーリビング(日常生活)」を表し、ADLは日本語では「日常生活動作」という言葉で表されます。
ADLの具体例は、「歩く」「階段の上り下り」「食事」「排泄」などが挙げられます。
日常生活動作という言葉の通り、人々が生活をする上で欠かせない動きであり、怪我や病気でADLを行う能力が低下すると、住み慣れた自宅などで生活することが難しくなります。
そのため、リハビリや介護の現場ではADLの各動作を「できる・できない」や「どのような介助がどのくらい必要か」といった項目に分けて確認・評価します。
理学療法士は、まさにこの部分に関わり、怪我や病気をされた方を対象にADLがどのくらい下がってしまっているのかを確認・評価し、ADLを回復させるために訓練を行っていきます。
ADLの種類
ADLの動作は、「BADL(基本的日常生活動作)」と「IADL(手段的日常生活動作)」の 2つに大きく分類されます。
BADLは「移動・食事・排泄・着替え」といった、日常生活を送るうえで最低限必要とされる動作を指します。
IADLは「買い物・料理・掃除」といった、BADLより少し複雑とされる動作になります。
BADL
BADLは「Basic ADL」を略したものであり、日本語で「基本的日常生活動作」と訳されます。
一般的に「ADL=BADL」として考えられており、日常生活においての「立つ・歩く・座る」といった生活するうえで欠かすことができない基本動作を指しています。
そのほか「食事・排泄・着替え・入浴」といった動作も含まれています。
要介護度が重度である方は、このような動作が低下している傾向にあります。
IADL
IADLは「Instrumental ADL」を略したものであり、日本語で「手段的日常生活動作」と訳されます。
「BADL(基本的日常生活動作)」の基本的な日常生活動作の次の段階を指しています。
「買い物・料理・交通機関利用」といった、少し複雑な日常生活動作が含まれています。
BADLと比較すると、認知能力や社会性などが求められる動作なのです。
IADLはBADLのうえに成り立っていると考えられており、IADLが低下することはBADLの低下の前段階であると言えます。
「BADLは維持できているけれど、IADLが低下してきている」という方は、要支援1・2として判定されることが多いでしょう。
IADLを維持し続けられていれば、介助を必要としない生活を継続することができるのです。
ADLの確認・評価方法
ADLを確認し評価する方法はさまざま様々ありますが、「FIM(フィム)」という方法と「BI(Barthel Index:バーセル インデックス)」という方法の2つが多くの病院で使用されています。
今回は、FIMについて紹介いたします。
FIMはGrangerらによって1983年に開発されたADLの評価方法です。
さまざまな「している能力」に着目して、「運動項目」「認知項目」の18項目を7つの段階に分けて採点していきます。
自分ですべての動作が行えている状態を「自立」として7点、すべての動作を介助されている状態を「全介助」として1点とカウントします。
18項目すべてが自立状態であると126点、すべてが全介助の状態であると18点になります。
つまり点数が高いほどADLの能力が高い、つまり日常生活を一人で行える能力が高いということが分かります。
ADLの項目
ADLの各動作はどういった項目により構成されているでしょうか?
さきほどのFIMの18項目にて確認していきましょう。
①食事:お箸やスプーンを使って食べ物を口に運び、噛んで飲み込む動きを確認します。
②整容:歯磨き、手洗い、洗顔、整髪、髭剃りや化粧といった項目の動きを確認します。
③清拭:腕や脚、胴体などを洗い、すすぎ、拭いたり乾かしたりする動きを確認します。
④更衣(上半身):上半身の衣類を脱いだり着たりする動作を確認します。
⑤更衣(下半身):下半身の衣類を脱いだり着たりする動作を確認します。
⑥トイレ動作:トイレでの服の上げ下げやお尻を拭くといった動作を確認します。
⑦排尿コントロール:排尿における失敗の頻度等を確認します。
⑧排便コントロール:排便における失敗の頻度等を確認します。
⑨移乗(ベッド・椅子・車椅子):ベッドと椅子や車椅子の間の乗り移りにおいて、立ち上がる、方向転換する、着座するための各動きを確認します。
⑩移乗(トイレ):トイレの座面への乗り移りの各動きを確認します。
⑪移乗(浴槽・シャワー):浴槽への乗り移りの各動きを確認します。
⑫移動(歩行・車椅子):歩きや車椅子での移動している距離を確認します。
⑬階段:階段を上り下りの動きを確認します。
⑭理解:相手の言っていることが、どのくらい理解できているかを確認します。
⑮表出:自身の言いたいことを、相手にどのくらい伝えることができているかを確認します。
⑯社会的交流:家族や病院のスタッフなど周囲の人々との関わりにおいてどの程度サポートが必要かを確認します。
⑰問題解決:日常で起こるさまざま様々な問題を解決できるかを確認します。
⑱記憶:よく会う人、日課、他者からの依頼の3つを覚えているかを確認します。
すべて日々の生活を行う上で大切な項目であることが分かりますね。
これらの項目のなかで理学療法士は「着替えに必要な肩の関節の動きはどうか?」、「階段を上るのに必要な脚の筋力は十分あるか?」、「歩くための持久力はどのくらいあるのか?」といった内容を確認していきます。
ADL能力低下の要因
ADLを行う能力が低下してしまう原因はさまざまですが、怪我や病気が代表的です。
例えば転倒により脚を骨折してしまうと、階段を上ることや歩いて移動することが難しくなるかもしれません。
更衣(下半身)も難しくなると考えられます。
また脳卒中などで手が麻痺してしまうと、食事や顔を洗うといった動きの能力は下がってしまうことが予測されています。
また超高齢社会の現在、年齢を重ねることにより筋力が衰え活動量が低下してしまう状態も、ADLを一人で行うことが難しくなる要因として着目されています。
その他にも、認知機能の衰えや不安定な精神状態もADL能力を低下させる要因になると言われています。
ADL能力低下への対策
生活習慣病である糖尿病や高血圧の病状が引き起こされると脳卒中のリスクも高まることから、バランスの取れた食事や良好な睡眠、飲酒・喫煙といった習慣は検討する必要があります。
年齢を重ねることにより筋力や体力が低下すると活動量も低下するだけでなく転倒の危険性も高まるため、安全な環境でスクワットや脚上げ動作など筋力を強化する運動を積極的に行うことも対策として考えられるでしょう。
また、筋力をつけるためにもバランスの取れた食事は必要となります。
ADL能力低下に対してこのような対策を日々行うことは本人のみならず周囲の方が見守ることも大切です。
ADL向上を目的とした訓練について
怪我や病気などによりADLが低下してしまうと、住み慣れた家で生活することが難しくなるなど、その方の人生に大きな影響を及ぼしてしまします。
また一人でできることが少なく自室にこもりがちになると、身体機能は更に低下していき最終的に寝たきりになることも考えられます。
各ADL動作を改善できるよう理学療法士はさまざまな訓練を行っていきます。
以下にいくつか紹介いたします。
関節可動域訓練
膝が伸びなくなると立つことが難しくなるように手足の関節が硬くなるとさまざまなADLに影響を及ぼします。
関節が硬くなってしまわないように、「関節を曲げる・伸ばす」といった動作を行う訓練です。
筋力強化訓練
脚の筋力が低下すると、歩くことや階段を上ることが難しくなりますので筋力の維持・回復を目的に筋力強化訓練を行います。
自身で筋肉を動かすのが難しい場合は、理学療法士が部分的に介助を行いながら進めていく場合もあります。
移乗動作訓練
移乗はベッドから車椅子、車椅子から便座や浴槽などに乗り移る動作のことを指します。
乗り移りを安全に負担が少なく行うために車椅子の向きはどうしたら良いか、手すりはどの順番で利用すると良いかなど大切なポイントを踏まえ実施していきます。
歩行練習
歩く能力を高めるためバランス能力を確認しながら訓練を行っています。
状態に合わせて、平行棒や歩行器・松葉杖・一本杖(T字杖)など適切な歩行補助具を選び実施していきます。
その他
医師・作業療法士・言語聴覚士を含むリハビリテーションチームで協力しながら食事練習や更衣練習、歯磨きや洗顔といった整容の練習なども行っていきます。
おわりに
本記事では理学療法士が関わるADLとその項目や評価方法・訓練内容などを紹介しました。
ADLの各動作を行うためにはさまざまな身体の動きが必要となります。
そういった動きはやはり患者様ご本人が積極的に行われていることで維持・改善されていきますので、理学療法士には患者様の意欲を引き出す関わり方も求められています。
当校の理学療法科では「日常生活活動学」や「日常生活活動学実習」といった科目にて講義や実技を通し、ADLについての更なる詳細や求められている技術、患者様との関わり方などを学んでいくことができます。